このページの要点
- 民法は成年を18歳とし、未成年者が法定代理人の同意なくした売買は取り消せる(4条・5条)。
- 取り消されると契約は初めから無効になり、未成年者の返還は現に利益を受けている限度に絞られる(121条・121条の2)。
- 同意書は、品物・代金・支払方法を特定し、取引ごとに親権者から取る。年齢の確認も資料で行う。
- 代理人には委任状と本人への確認を求め、名義貸しは契約書の当事者欄を責任を負う人にそろえる。
結論:未成年者との売買は同意の有無で取り消せるかが変わり、代理人との売買は代理権の確認が決め手になる
高価な物を売り買いする場面では、目の前の相手が契約を結べる人なのかを確かめないまま話が進むことがあります。学生が自分で貯めたお金で楽器やカメラを買いに来た、親が代わりに買いに来た、家族の名前を借りて申し込みたいと言われた。こうした場面で問題になるのは、品物の状態や代金の額ではなく、「この人と結んだ契約は、あとから覆らないか」という点です。
結論を先に整理します。民法は、成年を18歳とし(民法4条)、未成年者が法律行為をするには法定代理人(通常は親権者)の同意を得なければならず、同意のない行為は取り消すことができると定めています(同法5条1項・2項)。取り消されると、契約は初めから無効だったものとみなされ(同法121条)、売主は代金を返し、買主は品物を返すという巻き戻しが起きます。売る側にとっては、品物を引き渡して代金を受け取ったあとでも、取引が元に戻り得るということです。
代理人が来た場合は、別の確認が要ります。代理人が本人のために権限の範囲内で行った契約は本人に直接効力を生じますが(同法99条)、代理権がないのに代理人として結んだ契約は、本人が追認しなければ本人に効力を生じません(同法113条1項)。「家族だから大丈夫」と思って進めた取引が、本人の知らない契約だったという事態を防ぐには、代理権の証拠を取引の前に残しておく必要があります。
- 相手の年齢は、口頭の自己申告だけでなく、確認できる資料で確かめる。18歳未満なら、親権者の同意を取引ごとに書面で残す。
- 同意は「親が了承している」という伝聞では足りない。誰が、どの取引について、いくらの範囲で同意したのかを書く。
- 代理人には、本人の氏名・代理人の氏名・取引の内容・代金の上限・有効期間を記載した委任状を出してもらい、本人にも直接確認できる経路を残す。
- 名義を借りた購入は、契約の相手方と実際に使う人、代金を払う人が別になる。契約書の当事者欄には、責任を負う人を載せる。
- 取り消された場合の返還は、成年者どうしの契約解除と同じではない。未成年者側の返還の範囲が限られる点を、売る側は織り込んでおく。
このページは、個人間や小規模な事業者が、高額の品物を未成年者や代理人と取引するときの確認に絞って説明します。売る人と買う人の立場による法令の違いは立場別の適用法令のページで、売買契約の全体の骨格は全体像と書面のページで扱っています。
未成年者との売買:同意がなければ取り消せる、という民法のしくみ
まず、取り消せるのはどんな場合かを条文で押さえます。民法5条1項は、未成年者が法律行為をするには法定代理人の同意が必要だと定め、ただし書で「単に権利を得、又は義務を免れる法律行為」は例外としています。売買は、品物を受け取る権利を得る一方で代金を払う義務を負う契約ですから、このただし書の例外にはあたりません。したがって、未成年者が自分で買う、あるいは自分の持ち物を売るという契約は、原則として同意が必要な行為です。
同意のない行為は取り消すことができます(同法5条2項)。取り消せる人は、未成年者本人のほか、その代理人、承継人、同意をすることができる者に限られます(同法120条1項)。つまり、取り消すかどうかを決める立場にあるのは未成年者側であり、売主が「やはりこの契約はなかったことにしたい」と言い出すことはできません。
未成年者の売買に関わる条文メモ
民法4条
成年
年齢18歳をもって、成年とする。18歳未満が未成年者にあたる。
民法5条1項・2項
未成年者の法律行為
法定代理人の同意が必要。ただし単に権利を得、又は義務を免れる行為は除く。同意に反する行為は取り消すことができる。
民法5条3項
処分を許した財産
法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内で自由に処分できる。目的を定めずに許した財産も処分できる。
民法6条1項
営業の許可
一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては成年者と同一の行為能力を有する。
民法120条1項
取消権者
制限行為能力者本人、その代理人、承継人、同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
民法121条
取消しの効果
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなされる。
条文の言い換えです。当てはめは、取引の内容と相手の状況によって変わります。
ここで、例外にあたり得る場面を整理しておきます。一つは、親が目的を定めて渡した財産です。たとえば、特定の習い事のために渡された金銭をその目的で使う場合は、目的の範囲内で本人が自由に処分できます(同法5条3項)。目的を定めずに渡したお小遣いも、同じく処分できるとされています。ただし、高額の品物の購入が「お小遣いの範囲」にあたるのか、「目的を定めた財産」の範囲にあたるのかは、金額や日常の使い方を踏まえて争いになり得ます。売る側が「お小遣いだから大丈夫」と自分で判断するのは、危うい進め方です。
もう一つは、営業を許された未成年者です。親権者から特定の営業を許された未成年者は、その営業に関しては成年者と同じ行為能力を持ちます(同法6条1項)。ただし、許された営業の範囲は営業ごとに決まるもので、「個人で物を売っている」というだけでは許可があるとはいえません。許可の有無は、親権者の許可を示す書面で確認する必要があります。
未成年者との売買で、取り消せる場合とそうでない場合
| 場面 | 同意の状況 | 取り消せるか | 売る側の確認 |
|---|---|---|---|
| 親権者の事前の同意がある | 取引の内容・金額を特定した同意書がある | 同意の範囲内であれば、同意がないことを理由には取り消せない | 同意書の範囲(品物・代金・期間)と、署名した人が親権者であることを確かめる |
| 同意がなく、本人だけで申し込んだ | 同意の記録がない | 取り消すことができる(5条2項) | 取引を進める前に親権者に直接確かめ、書面を取る |
| 目的を定めたお金や、お小遣いで買う | 目的の範囲内かどうかが争点 | 範囲内なら本人の処分として有効、範囲外なら取り消し得る | 金額が大きいときは範囲内と決めつけず、親権者の同意を取る |
| 営業を許された未成年者が、その営業のために売買する | 許可を示す書面がある | 許された営業の範囲内なら、成年者と同じに扱われる(6条1項) | 許可の範囲を示す資料を確かめる |
| 親権者本人が代理して契約する | 親権者が子の名で契約する | 代理人としての契約(99条)。子の同意の問題とは別 | 契約書に親権者の氏名と、子のために契約する旨を書く |
取り消されたら、何をどこまで返すのか
取消しが行われると、契約は初めから無効だったとみなされます(同法121条)。そのうえで、無効な行為に基づいて給付を受けた人は、相手方を原状に復させる義務を負います(同法121条の2第1項)。売主は受け取った代金を返し、買主は受け取った品物を返す、というのが基本の形です。
ただし、この原則には未成年者のための例外があります。行為の時に制限行為能力者であった人は、その行為によって現に利益を受けている限度において返還の義務を負う、とされています(同法121条の2第3項)。未成年者側が返すべき範囲は、現に残っている利益に絞られるということです。売る側が気をつけたいのはこの点です。未成年者が代金を使い切り、受け取った品物も壊したり手放したりしていた場合、売主が元の状態に戻してもらえる範囲は、成年者どうしの解除より狭くなるおそれがあります。
未成年者との売買が取り消されるまでの流れ(一般的な例)
- 申込みと引渡し同意の確認なしに、品物と代金のやり取りが済む
- 取消しの意思表示未成年者本人か親権者が、売主へ取り消す旨を伝える
- 契約は初めから無効取り消された行為は、初めから無効だったものとみなされる
- 原状回復売主は代金を返す。未成年者側は現に利益を受けている限度で返す
- 残る損失品物の滅失や代金の消費による差は、売主が負うおそれがある
取消しは、売主の落ち度の有無を問わず認められます。売る側は、取引の前の確認で備えます。
取消しの意思表示は、相手方に対する意思表示として行われるのが通常で、方式は法律で決まっていません。メッセージで「取り消します」と伝えられた場合でも、取消しの意思が表れていれば有効に成り立つ余地があります。売主としては、取消しを伝えられた時点で、相手の氏名、日時、伝えられた内容を記録し、品物の現状(使用の有無、傷、付属品)も写真で残しておくと、返還の範囲を話し合う材料になります。
取消権には期間の制限もあります。取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないとき、または行為の時から20年を経過したときに消滅します(同法126条)。売主から見れば、未成年者との取引は、成年に達してから一定期間が過ぎるまで、取り消され得る状態が続きます。この不安定さを早く解消する方法が、次に述べる追認と催告です。
同意の取り方:誰の、何についての、どの範囲の同意を書面にするか
同意が必要な場面では、同意書をどう作るかが実務の中心になります。同意は、親権者などの法定代理人が行います。親権は、成年に達しない子の利益のために行使され(同法818条1項)、父母の婚姻中は双方が親権者です(同条2項)。親権を行う者は、子の財産を管理し、その財産に関する法律行為について子を代表します(同法824条)。
父母が共同して親権を行う場合、一方が共同の名義で子に代わって法律行為をし、または子がこれをすることに同意したときは、他方の意思に反していても、その効力は妨げられません。ただし、相手方が悪意であったときは別です(同法825条)。この規定は、父母の一方の署名があれば足りる場合があることを示す一方で、相手方(売る側)が他方の反対を知っていたときには守られないことも示しています。売る側が「もう一方の親は知っているのか」を尋ね、知っていて取引を進めたとなれば、この保護を受けにくくなります。
同意書に書く事項は、同意の対象を特定できるかどうかで決まります。品物の名称と型番、代金の額、支払方法、引渡しの日、同意した親権者の氏名と住所、未成年者との続柄、同意した日。これらがそろっていれば、同意が取引ごとのものであることが分かります。「息子の購入を了承します」とだけ書かれた書面は、どの取引についての同意なのかが分からず、後日の争いのもとになります。
条項の例未成年者の購入に対する、親権者の同意の書き方
- 私は、買主(以下「未成年者」という)の親権者として、未成年者が売主から次の物品を購入することに同意する。物品の名称・型番は別紙のとおり、代金は金○円、支払方法は○、引渡しの日は○年○月○日とする。
- 私は、前項の代金について、未成年者が自己の財産から支払うこと、または私が支払うことのいずれかに同意し、その別を次のとおり定める。□未成年者の財産から支払う □親権者が支払う
- 本同意は、前項に記載した取引に限る。物品の追加、代金の変更、分割払いへの変更その他の変更を行う場合は、改めて書面による同意を得る。
- 私は、未成年者との続柄、氏名、住所および連絡先を次のとおり記載し、売主が必要に応じて私に直接確認することに同意する。
○は取引ごとに決めます。同意書は、取引の前に取り、売買契約書の添付書類として保管します。
同意書に署名した人が本当に親権者なのか、という確認も欠かせません。書類上の確認方法には、親権者の本人確認書類の写し、続柄の分かる資料の提示などがあります。ただし、必要以上に個人情報を集めると別の問題が出るため、確認した事実の記録にとどめ、写しの保管は目的の範囲で行います。
書き方の例(一般的な例) 未成年者への販売で、同意をどう残すか
同意の書き方
理由伝聞では、親権者が実際に同意したことの証拠にならず、取消しの主張に対抗できない。
同意の範囲
理由範囲が特定されていないと、後日「その金額まで認めていない」と争われる。
代金の出どころ
理由代金の出どころが分かれば、お小遣いの範囲かどうかの判断材料になる。
年齢を偽られたとき・追認と催告で取引を安定させる方法
「成年です」と言われて取引したあとで、実は未成年者だったと分かる場合があります。民法21条は、制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができないと定めています。ここで問題になるのは、どこからが「詐術」にあたるかです。年齢の入力欄に「18歳以上」とボタンを選ばせただけの場合と、偽造した資料を示した場合とでは、評価が分かれ得ます。
この線引きは、取引の経過、相手の言動、売る側が確認を尽くしたかどうかによって変わります。個別の事案にどう当てはまるかは、この条文だけでは決まらないため、「年齢確認の画面で承諾ボタンを押させたから安全」とは書かないことが大切です。売る側にとって確かなのは、取引の前に年齢を確かめる資料を求め、確認した事実を残す進め方です。
すでに取引が済んでいて、取り消されるかもしれない不安を減らしたい場合には、追認と催告があります。取り消すことができる行為は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後に追認すれば、効力を確定させられます(同法124条1項)。未成年者が成年に達し、取消権を有することを知ったあとに自ら追認する、あるいは法定代理人が追認する、という形です(同条1項・2項1号)。
相手方である売主にも、働きかけの手段が与えられています。制限行為能力者の相手方は、その人が行為能力者となった後、1か月以上の期間を定めて、取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答するよう催告できます。期間内に確答がなければ、追認したものとみなされます(同法20条1項)。また、未成年の間に法定代理人に対して催告し、確答がなければ同様に追認とみなされます(同条2項)。
取引を安定させる流れ(一般的な例)
- 年齢の確認申込みの前に、年齢が分かる資料を確認して記録する
- 同意書の取得18歳未満なら、取引を特定した同意書を親権者から取る
- 契約書への添付同意書を売買契約書に添付して保管する
- 疑義が出たとき成年後でも追認の有無を確かめ、必要なら20条の催告を行う
催告の書面は、相手の氏名、対象の取引、確答すべき期間(1か月以上)、確答の方法を明記します。
代理人が来たとき:代理権の確認と、委任状に書く内容
高額品の取引では、本人ではなく家族や知人が「代理で」購入や引渡しに来ることがあります。代理人の行為が本人に及ぶには、代理人が代理権を持っていること、そして本人のためにすることを示していることが必要です(民法99条1項)。代理人が本人のためにすることを示さずに意思表示をしたときは、自己のためにしたものとみなされます。ただし、相手方が本人のためにすることを知り、または知ることができたときは別です(同法100条)。
代理権がない人が代理人として契約をしたときは、本人が追認しなければ、その契約は本人に効力を生じません(同法113条1項)。そして、追認も追認の拒絶も、相手方に対して行わなければ、その相手方に対抗できません(同条2項)。この間、相手方は、本人が追認しないうちは契約を取り消すことができます。ただし、契約の時に代理権がないことを知っていたときは取り消せません(同法115条)。
代理権がなかった場合の代理人の責任は、売る側にとって重要です。他人の代理人として契約をした人は、自分の代理権を証明できたとき、または本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、履行または損害賠償の責任を負います(同法117条1項)。ただし、相手方が代理権のないことを知っていたとき、過失によって知らなかったとき(代理人自身が代理権のないことを知っていた場合を除く)、代理人が行為能力を制限されていたときは、この責任を追及できません(同条2項)。
代理人との売買に関わる条文メモ
民法99条1項
代理行為の効果
代理人が権限内で、本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に直接効力を生ずる。
民法100条
本人のためにすることを示さない場合
示さない意思表示は、自己のためにしたものとみなされる。ただし相手方が知り、または知ることができたときは別。
民法102条
代理人の行為能力
制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消せない。
民法108条
自己契約・双方代理
相手方の代理人としてした行為や、当事者双方の代理人としてした行為は、代理権のない者の行為とみなされる。本人の許諾などの例外がある。
民法109条1項・110条
表見代理
代理権を与えた旨を第三者に示した場合や、代理人が権限外の行為をした場合に、一定の要件で本人が責任を負う。
民法111条1項
代理権の消滅
本人の死亡、代理人の死亡や破産手続開始決定・後見開始の審判で代理権は消滅する。
民法113条・115条・116条・117条
無権代理
本人が追認しなければ効力を生じない。追認しない間は相手方が取り消せる。追認は契約の時にさかのぼる。代理人は履行または損害賠償の責任を負う場合がある。
条文の言い換えです。表見代理や追認の成否は、事情によって判断が分かれます。
これらの条文を踏まえると、売る側が代理人との取引で確かめるべきことは、代理権の存在、範囲、そして期間です。委任状は、民法が書式を定めた書類ではありませんが、代理権があることを示す実務上の資料になります。書き方次第で、証拠としての価値が大きく変わります。
条項の例委任状に書く事項の例(買主が代理人に購入を任せる場合)
- 私は、次の者を代理人と定め、下記の物品を売主から購入する契約の締結および代金の支払に関する一切の権限を委任する。代理人の氏名・住所・連絡先は別記のとおり。
- 対象の物品は、名称・型番・シリアル番号を別紙のとおり特定し、代金の上限は金○円とする。この範囲を超える契約および分割払いに関する権限は含まない。
- 本委任状の有効期間は、○年○月○日から○年○月○日までとする。
- 委任者の氏名、住所、連絡先および押印(署名)を末尾に記載し、委任者本人の本人確認書類の写しを添付する。売主は、必要に応じて委任者本人に連絡して委任の事実を確かめることができる。
本人が連絡を取れない事情があるときは、本人の意思が確認できる別の手段(本人名義のメッセージの履歴など)を残します。
代理人が来たときに、売る側が確かめる問いと理由
問い委任状の日付と有効期間は、取引の日を含んでいるか。
理由期間外の委任状では、代理権を示す資料にならない。
問い委任状に、品物と代金の上限が書かれているか。
理由範囲が書かれていないと、権限外の行為になるかどうかを判断できない。
問い委任者本人に、直接連絡できる経路が残っているか。
理由代理権を確かめる最も確実な方法は、本人への確認である。
問い本人が亡くなっている、または代理人に何かあったという話がないか。
理由本人の死亡や代理人の破産手続開始決定・後見開始の審判で代理権は消滅する(111条1項)。
問い代理人が、買主と売主の両方の代理人を兼ねていないか。
理由双方代理は、本人の許諾などがなければ無権代理とみなされる(108条)。
代理人が未成年である場合の扱いも押さえておきます。制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消せません(同法102条)。したがって、本人が成年であれば、代理人が未成年だという理由だけで、その代理行為を取り消すことは原則できません。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為は、この例外から外れます(同条ただし書)。実際の取引では、代理人の年齢を確認し、判断が分かれそうなときは取引を進めない、という安全側の判断がしやすいです。
名義貸しと当事者の特定:契約書の「買主」は誰なのか
名義を借りた購入は、契約書の当事者欄の氏名と、実際に品物を使う人、代金を払う人が一致しない状態をつくります。たとえば、家族の名前で申し込んで本人が使う、会社員の知人の名義で購入して代金は別の人が払う、といった形です。こうした取引では、トラブルが起きたときに誰に請求するのかが分からなくなります。
契約の当事者は、契約書に載った名義の人なのか、実際に動いた人なのか。この問いは、契約書の記載と取引の経過の両方から決まります。民法100条は、代理人が本人のためにすることを示さずにした意思表示は、自己のためにしたものとみなすと定めています。名義人本人が申し込み、名義人本人が契約書に署名した場合、売主から見て買主は名義人です。名義人は「自分は名前を貸しただけ」と言っても、売主に対して代金の支払義務を免れられない可能性があります。
一方、売主が、名義人ではなく別の人が実際に買主であることを知っていた場合には、事情が変わり得ます。売主は、契約書上の買主に請求するつもりで取引していたのか、実際に品物を使う人に請求するつもりだったのかを、取引の経過から説明できなければなりません。名義と実態が食い違っていることが分かった時点で、契約書を作り直し、当事者の欄を実際の責任者にそろえるのが、後日の争いを防ぐ最も確かな方法です。
名義と実態が食い違う場面と、書面で防ぐ方法
家族の名前で申し込み、本人が使う
起きがちなこと契約の相手が名義人なのか使う人なのか分からず、代金の請求先が決まらない。
防ぐ書き方契約書の買主欄に責任を負う人の氏名を載せ、使用者が別なら「使用者」の欄を設けて区別する。
支払う人が契約者と別人
起きがちなこと契約者が払わないとき、支払った人が「自分は関係ない」と言い出す。
防ぐ書き方代金の支払者を契約書に書き、支払者が連帯して責任を負うのか、立替えにとどまるのかを定める。
購入者の名義を使い回す
起きがちなこと何度か取引した相手が、別人の名義で申し込んでくる。
防ぐ書き方取引ごとに、契約書の署名者と本人確認の対象が同一かどうかを確かめる。
代理人が自分の名義で契約する
起きがちなこと本人のために行ったのか自己のために行ったのか、あとで争いになる。
防ぐ書き方契約書に「代理人として」「本人のために」と明記し、本人の氏名を併記する(99条1項・100条)。
名義貸しは、売る側にも買う側にも、後日の責任の所在が見えにくくなる進め方です。
売る側が個人であり、買う側が分割払いを希望している場面では、さらに注意が必要です。契約者の信用を前提に品物を先に渡す取引で、実際の支払者が別人だったとなれば、代金の回収が難しくなります。分割払いの条項の組み立ては分割払いのページ、高額品の真贋や付属書類の確認は高額品・真贋のページ、品物の引渡しと受領書は引渡し・配送のページで扱っています。
起きがちなこと:未成年者・代理人・名義貸しの取引で、あとから揉める典型
ここまでの内容を、取引のあとで揉めやすい典型的な場面に引き直して整理します。いずれも、取引の前に確認と記録を残すことで防げるものです。
起きがちなこと
- 学生が自分で貯めたお金で高額の楽器を買い、数週間後に親から「同意していない」と取消しを伝えられる。売主は品物が戻らず、代金だけ返す結果になる。
- 「親が了承している」という本人の言葉だけを信じて引き渡し、親に確かめていなかったため、同意の証拠がない。
- 同意書に「購入を認める」とだけ書かれ、品物や金額の記載がなく、どの取引への同意か争いになる。
- 年齢確認の画面で承諾ボタンを押させたから安全だと思い込み、未成年者と判明したときに取消しを防げない。
- 代理人が来て、委任状の日付が取引の日より前に切れていた。本人に連絡が取れず、代理権の有無が不明のまま進めてしまう。
- 本人が亡くなったあと、家族が以前の委任状を示して取引を進めようとする。代理権が消滅している可能性を見落とす。
- 家族の名義で契約し、代金の支払が滞ったとき、名義人が「自分は名義を貸しただけ」と主張して請求先が定まらない。
取引の前のチェックを一覧にしておくと、確認漏れを減らせます。以下は、相手が未成年者や代理人かもしれないときの確認の順序です。
取引前のチェックリスト
- 相手の年齢を、確認できる資料で確かめたか。18歳未満の可能性があるか。
- 18歳未満なら、親権者の同意書を、品物・代金・支払方法を特定して取ったか。
- 同意書の署名者が親権者であることを、資料と本人への連絡で確かめたか。
- 代理人が来ているなら、委任状に品物・代金の上限・有効期間・代理人の氏名が書かれているか。
- 委任者本人に、取引の前に直接連絡して意思を確かめたか。
- 契約書の買主欄と、実際の使用者・支払者が一致しているか。一致しないなら、その関係を契約書に書いたか。
- 取引後に取り消された場合に備え、品物の状態を写真で記録し、代金の受領を記録したか。
よくあるご質問
未成年者に高価な物を売ったあとで、取り消されることはありますか。
親権者などの法定代理人の同意がない場合、未成年者の契約は取り消すことができます(民法5条2項)。取消しができるのは、未成年者本人、その代理人、承継人、同意をすることができる者です(同法120条1項)。取り消されると、契約は初めから無効だったものとみなされ(同法121条)、売主は代金を返し、未成年者側は現に利益を受けている限度で返す形になります(同法121条の2第1項・3項)。同意書を取引の前に取っておくことが、取消しを防ぐ最も現実的な方法です。
お年玉やお小遣いで買う場合も、親の同意が必要ですか。
法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内で自由に処分できます。目的を定めずに処分を許した財産を処分するときも同様です(民法5条3項)。ただし、高額の品物の購入が許された範囲にあたるかどうかは、金額や普段の使い方を踏まえて争いになり得ます。金額が大きいときは、範囲内と決めつけず、親権者の同意を書面で取るのが安全です。
相手が「成年です」と言ったので売りました。あとから未成年者だと分かったら、取り消せませんか。
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができません(民法21条)。ただし、どこからが詐術にあたるかは、取引の経過や相手の言動、売る側が確認を尽くしたかによって変わります。単に口頭で成年と述べただけで必ず詐術にあたるとは限りません。取引の前に、年齢の分かる資料を確認し、確認した事実を記録しておくことが大切です。
代理人が「本人から頼まれた」と言って購入に来ました。何を確認すればよいですか。
代理人の行為が本人に及ぶには、代理権があり、本人のためにすることを示している必要があります(民法99条1項)。代理権がないのに契約した場合、本人が追認しなければ本人に効力を生じません(同法113条1項)。委任状で、本人の氏名、代理人の氏名、対象の品物、代金の上限、有効期間を確認し、本人に直接連絡できる経路を残してください。本人の死亡など、代理権が消滅する事由がないかも確かめます(同法111条)。
家族の名前を借りて購入した場合、契約の相手は誰になりますか。
契約書の署名者や申込者が名義人であり、名義人が自分の名で申し込んだなら、売主から見て買主は名義人です。名義人が「名前を貸しただけ」と言っても、売主に対する代金の支払義務を免れられるとは限りません。一方、代理人が本人のためにすることを示さずに意思表示をした場合は、自己のためにしたものとみなされます(民法100条)。名義と実態が食い違うときは、契約書の当事者欄を実際の責任者にそろえるのが後日の争いを防ぎます。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、品物の状態、当事者が個人か事業者か、やり取りの経過によって結論が変わることがあります。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。確認できなかった点は、条文と所管官庁の資料で確認が必要としています。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 / 警察庁 / 国民生活センター