このページの要点
- 手付は「解除する自由」「契約の証拠」「違約金」のどれなのかを書面に書く。民法557条は、手付の放棄または倍額の現実の提供で、相手方が履行に着手するまでは解除できると定めている。
- 解除の期限は、「履行の着手」に任せず、日付で決めておく。着手に当たる出来事(残代金の支払、発送など)も書く。
- 内金・前払金は代金の一部で、手付とは別。契約が解除されれば返還が原則(民法545条)。取り置き料は、購入時に代金へ充当するかを決める。
- 取り置きは、売買が成立している型か、購入する権利の確保に近い型かを書面で決める。期間は日時で書き、延長の手順と期限後の扱いも書く。
結論:手付は「何のために渡すか」を書面で決め、内金や取り置き料と混ぜない
高い品物を「取り置いてほしい」と頼まれたとき、あるいは「確実に買うので押さえておいてほしい」と言ってお金を渡すとき、お金と約束が先に動きます。この段階では、まだ品物は動いていません。だからこそ、あとから「やっぱりやめたい」「来なかった」「他の人に売ってしまった」という食い違いが出やすい場面です。
このページの結論は、次の四つに絞れます。
- 手付(契約の際に買主が売主へ渡すお金)は、渡した理由で効果が変わる。「解除する自由を買うお金」なのか「契約した証拠」なのか「守らなかったときの違約金」なのかを、書面に一行で書いておく。
- 民法557条は、買主は手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供すれば、相手方が契約の履行に着手するまでは契約を解除できると定めている。この解除の期限は、「履行の着手」という言葉に任せず、日付で決めておくと揉めにくい。
- 内金・前払金は、代金の一部を先に払うお金であり、手付とは別物。手付は放棄すれば戻らないが、内金は契約が解除されれば返還が原則になる。
- 取り置きは、売買がすでに成立していて引取りを待っているのか、買主に購入を選ぶ権利を与えているだけなのかで、買主が来なかったときの扱いが変わる。期間・延長・取り置き料・期限後の扱いを書面で決める。
ここで扱うのは、中古の家電・楽器・カメラ・時計・貴金属・機材のような、一点物の動産(持ち運べる財産)の個人間売買です。契約書全体の組み立ては個人間売買の契約書の全体像で、代金そのものの書き方は目的物と代金の書き方で整理しています。不動産や乗り物の売買は、このガイドの対象外です。
手付とは何か:民法557条が決めていること
手付とは、売買契約を結ぶ際に、買主から売主に交付されるお金のことです。民法557条1項は、買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約を解除することができる、と定めています。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りではありません。
この条文は、手付による解除の仕組みを、次の順で読むと分かりやすくなります。
- 買主から解除するときは、渡した手付を戻してもらわない(放棄する)ことで解除できる。
- 売主から解除するときは、受け取った手付を返すだけでなく、その倍の額を現実に提供する必要がある。たとえば手付を受け取っていた売主は、手付と同額を返し、さらに同額を上乗せして示す形になる。
- 解除できるのは、解除したい人の相手方が「契約の履行に着手」するまで。相手方がすでに履行を始めていれば、手付による解除はできなくなる。
- 手付で解除した場合は、解除に伴う損害賠償は請求できない。民法557条2項が、解除の効果を定めた民法545条4項(解除しても損害賠償を請求できるとする規定)をこの場合に適用しないとしているためである。
ここで「履行に着手した」という言葉が出てきます。買主が代金を払い始めた、売主が品物を梱包して発送の準備を終えた、といった事情が当てはまりうる言葉ですが、どこからが着手かは、条文の文言だけでは決まりません。個人間の取引では、やり取りの記録が少ないことも多く、あとから「着手していた」「していない」と争いになる原因になります。
手付の三つの意味(一般にこのように分けて説明されます)
| 種類 | 意味 | 渡した後の効果 | 書面に書くこと |
|---|---|---|---|
| 解約手付 | 契約を解除する自由を確保するために渡す手付。民法557条が書いているのは、この仕組みです。 | 相手方が履行に着手するまでは、買主は放棄、売主は倍額の提供で、理由を問わず解除できる。解除による損害賠償は請求できない。 | 解除できる期限、放棄・倍額提供の方法、解除の通知の方法。 |
| 証約手付 | 契約が成立した証拠として渡す手付。 | 手付そのものに、解除する力も違約金の効力もない。代金の一部として扱うのが通常。 | 受け取った日付と金額、残代金に充当すること。 |
| 違約手付 | 契約に違反したときの違約金として備える手付。 | 違反した側の手付が没収される(売主なら倍額の支払)などの形で働く。民法420条により、違約金は賠償額の予定と推定される。 | どの違反で没収するか。没収のほかに損害賠償を請求できるか。 |
表の三つの名前は、民法に書かれた名前ではなく、実務や解説書でそう呼ばれている区分です。一つの手付が、これらの意味を兼ねる書き方もあります。ただし、「解除する自由を買うお金」と「違約金」を兼ねさせると、買主が放棄して解除したのに売主から違約の損害を請求される、といった食い違いが起きかねません。手付の意味を書面に書いていないと、民法557条の解除が使えるのか、手付がそもそも返ってくるのか、双方の理解が分かれたまま取引が進むことになります。
手付の額について、民法557条には上限の定めがありません。ただし、代金に比べて手付が大きすぎると、買主が放棄して解除する選択肢が事実上なくなり、手付が違約金の意味合いに近づきます。そのときは、解約手付の趣旨と違約金の性質のどちらを意図したのかを、書面で確かめておく必要があります。
解除できる期限と方法:「履行の着手」を日付に置き換える
手付による解除で最も揉めるのは、期限です。民法557条は「相手方が契約の履行に着手した後は解除できない」と書くだけで、具体的な日付を決めていません。個人間の売買では、次の二つの書き方を組み合わせると、争いの余地が小さくなります。
- 手付による解除ができる期限を、日付で書く。たとえば「○年○月○日まで」とし、その日を過ぎたら手付による解除はできないものとする。
- 期限の前でも、買主が残代金を支払った、売主が品物を発送した、といった履行の開始にあたる出来事が起きたときは、手付による解除ができなくなる、と書く。
日付で期限を切ることは、契約自由の範囲の取り決めです(民法521条2項は、契約の当事者が法令の制限内で契約の内容を自由に決められると定めています)。条文の言葉よりも当事者が自分で決めた期限のほうが、あとで第三者が読んでも分かりやすくなります。
売主から手付で解除するときの流れ(一般的な例)
- 期限と着手の確認契約書で決めた解除の期限内か。買主が履行に着手していないか。
- 解除の意思表示解除する旨を、記録の残る方法で買主に伝える。意思表示は相手に到達した時から効力を生じる(民法97条1項)。
- 倍額の現実の提供受け取った手付と同額を返し、さらに同額を加えた額を、買主が受け取れる形で示す。
- 精算の確認品物をすでに預かっている、費用を立て替えている、といった事情を確かめ、合意書か記録に残す。
買主から放棄で解除する場合は、手付を戻してもらわない旨を伝えれば足ります。それでも、期限内であることと、相手方が履行に着手していないことは、売主側の記録で確かめられるようにしておきます。
売主が倍額を提供する場面では、言葉で「倍にして返す」と告げるだけでは足りません。民法557条は「現実に提供して」と書いており、実際に倍額を受け取れる形で示すことを求めています。振込で行うのか、持参するのかは書面で決めておくと、提供したかどうかの食い違いを避けられます。
条項の例手付に関する条項の書き方
- 買主は、売主に対し、本契約の成立を証するとともに、次項の解除権を留保するために、手付として金○円を、○年○月○日までに、売主の指定する口座に振り込んで交付する。
- 買主は、○年○月○日までは、手付を放棄して本契約を解除することができる。売主は、同日までは、手付の倍額を買主に現実に提供して本契約を解除することができる。
- 前項の期限前であっても、買主が残代金の全部または一部を支払ったとき、または売主が目的物を買主に引き渡したときは、前項の解除はできない。
- 第2項により解除したときは、当事者は、相手方に対し、解除により生じた損害の賠償を請求しない。
- 手付は、本契約が解除されることなく履行されたときは、残代金に充当し、利息は付さない。
○は取引ごとに決める。倍額提供の方法(振込・持参)は、実際の取引に合わせて追加する。
手付・内金・前払金・取り置き料の違い:返るお金と返らないお金
手付と似たお金に、内金・前払金・取り置き料があります。名前が違っても、書面に「預り金」「申込金」「予約金」とだけ書かれていると、あとで性質が分からなくなります。それぞれが何を意味し、契約が終わったときに返るかどうかを、一覧で整理します。
渡すお金の種類と、返るかどうか
| 名称 | 意味 | 代金との関係 | 契約が解除されたとき |
|---|---|---|---|
| 手付 | 契約の際に買主から売主へ渡すお金。解除の自由・契約の証拠・違約金のどれかの意味を持つ。 | 履行されれば、残代金に充当する。 | 手付による解除なら、買主が放棄、売主が倍額。違約なら、書面で決めた扱い。 |
| 内金・前払金 | 代金の一部を、引渡しの前に払うお金。 | 代金そのものの一部であり、受け取った売主は代金に充当する。 | 契約が解除されたときは、受け取った金銭を返還するのが原則。民法545条1項(原状回復)、2項(金銭を返すときは受領の時から利息を付ける)が関係する。 |
| 取り置き料 | 品物を一定期間、他の人に売らずに保管してもらう対価として払うお金。 | 代金に充当するか、充当しないかを決める。 | 書面に決めがなければ争いになる。購入しなかったときは返さない、購入したときは代金に充当する、といった書き方が一般的。 |
| 予約金・申込金 | 名前だけで意味が曖昧になりやすい。 | 手付か、内金か、取り置き料かを決めないと、返るかどうかが決まらない。 | 性質を書面で決める。 |
手付と内金の違いは、解除の場面で現れます。手付は、解除の自由を確保するために渡すお金なので、買主が手付を放棄して解除すれば、売主はそれを取り戻させなくてよくなります。内金は代金の一部ですから、契約が解除されれば、売主は受け取ったお金を返すのが原則です。民法545条2項により、金銭を返還するときは、受領の時から利息を付けなければなりません。手付を残代金に充当する書き方では、利息を付けない旨を一緒に書いておくのが一般的です。
書面には「手付金(内金を兼ねる)」と書かれていることがあります。その書き方では、解除できる自由と代金の一部支払いが混ざり、返るお金の範囲が分かりにくくなります。手付と内金を別のお金として、それぞれの金額と扱いを書き分けるほうが、あとの整理が容易です。
取り置きを書面にする:売買の成立か、購入する権利の確保か
取り置きには、法的な意味が二通りあります。どちらなのかで、買主が来なかったときの扱いが大きく変わります。
取り置きの二つの型
| 型 | 意味 | 買主が来なかったとき | 書面に書くこと |
|---|---|---|---|
| 売買が成立している型 | 売買契約はすでに成立していて、代金の支払と引取りを待っている。 | 買主は代金の支払と受取りの義務を負う。期限までに来なければ、売主は催告して契約を解除することも、受領遅滞を主張することもできる。 | 代金、支払期限、引取りの期限、期限後の扱い。 |
| 購入する権利を確保する型 | 売買はまだ成立せず、買主が購入すると決めた時に成立する。民法556条の売買の一方の予約に近い。 | 買主が購入の意思を表示しなければ、売買は成立しない。売主は他の人に売ってよい。 | 購入の意思を表示する期限、表示の方法、取り置き料の扱い。 |
民法556条1項は、売買の一方の予約について、相手方が売買を完結する意思を表示した時から売買の効力を生ずる、と定めています。「取り置き」が、買主に購入を選ぶ権利だけを与える約束であれば、この条文に近い整理になります。期間を決めなかった場合、予約者は相当の期間を定めて、買うかどうかの返事を催告でき、返事がなければ予約は効力を失います(同条2項)。
多くの個人間取引では、「取り置きます」とコメントやメッセージで伝えるだけで、どちらの型なのかを決めていません。そのため、買主が来ない場合に、売主が「買うと約束したはずだ」と言い、買主が「取り置いてもらっただけだ」と言う、という争いになります。まず、どちらの型かを書面で決めることが出発点です。
書き方の例(一般的な例) 取り置きの期間と扱い
取り置きの期間
理由期限が日時で分かれば、期限後に他の人へ売ったことが責められにくい。曖昧な期間は、売主が早く売ったという争いの元になる。
延長
理由延長が黙示で続くと、いつまで取り置きなのかが分からなくなる。承諾の記録を残す。
取り置き料
理由返還するかしないかに加え、購入したときの扱いを書くことで、手付や内金との区別がつく。
取り置きを頼む前・頼まれた時に確かめること
問いこの取り置きは、売買がすでに決まったことになるのか、それとも買うかどうかの選択権を確保するだけか。
理由成立しているのか、買う権利の確保なのかで、買主が来なかったときに売主が請求できる内容が変わるため。
問い期限は、日付と時刻で書けているか。
理由「しばらく」「近いうちに」では、期限後に他の人へ売ったことの正当性を説明できなくなるため。
問い取り置き料を取るか。取るなら、購入したときの代金への充当と、購入しなかったときの返還の有無はどうするか。
理由取り置き料の性質が手付か内金かが不明だと、返るお金の範囲を巡って争いになるため。
問い取り置きの期間中、品物を誰がどのように保管するか。
理由特定の物を引き渡す債務を負う者は、引渡しまで善良な管理者の注意をもって保存する義務を負う(民法400条)。保管中の破損の責任の所在を決めておく。
売買が成立している型であれば、取り置き期間中の品物の保管は売主の義務になります。
買主が来なかったとき・売主が他の人に売ってしまったとき
手付や取り置きのトラブルの多くは、買主が約束の日に来ない、あるいは売主が約束を破って他の人に売ってしまう、という二つの形に集約されます。順に整理します。
買主が来ない場合、売主が取れる手段は、契約が成立しているかどうかで変わります。売買が成立している型であれば、売主は、まず引渡しの準備ができていることを買主に通知して受取りを催告します。民法493条は、債権者があらかじめ受領を拒んだときや、債務の履行について債権者の行為が必要なときは、弁済の準備をしたことを通知して受領の催告をすれば足りる、と定めています。そのうえで、相当の期間を定めて代金の支払を催告し、その期間内に支払がなければ、契約を解除できます(民法541条)。債権者が履行を受け取らない状態の間の保存や費用の扱いは、民法413条に定めがあります。売主は、履行の提供をした時から引渡しまで、自己の財産に対するのと同一の注意で品物を保存すれば足り(同条1項)、履行の費用が増えたときは、その増加額は買主の負担になります(同条2項)。
書面で、「期限までに代金の支払または引取りがないときは、売主は催告なく契約を解除できる」と定めておくこともできます。催告なしの解除は、民法542条1項4号のように、特定の日時までに履行しなければ契約の目的を達しない場合には、条文上も認められています。一方、そこまで言えない場合に特約だけで一方的に解除できることにすると、買主が個人で売主が事業者のときは、消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)の評価を受ける可能性があります。
よくある場面と、書面で防ぐ書き方(一般的な例)
取り置きの期限日に買主が現れない
起きがちなこと連絡がつかないまま数日が過ぎ、売主は他の人に売ってよいのか判断できない。
防ぐ書き方期限を日時で書き、期限後は取り置きが終了して他の人に売れることを明記する。売買が成立している型なら、催告の方法と解除の時期も書く。
手付を払った買主が、直前にやめたいと言い出した
起きがちなこと売主は「手付を返さない」と言い、買主は「手付で解除できるはず」と考える。
防ぐ書き方手付による解除の期限と、履行の着手に当たる出来事を書く。期限後は、解除できない旨を明記する。
売主が、高く買う人に先に売ってしまった
起きがちなこと取り置き中の品物を、先に代金を払った別の人に引き渡してしまう。
防ぐ書き方取り置き期間中は他の人に売らない旨を書く。売主の都合で引渡しができないときは、受け取ったお金の全額返還と、損害の扱いも書く。
取り置き料を払ったが、買わなかった
起きがちなこと買主は返金を求め、売主は取り置き料は返さないと考える。
防ぐ書き方購入しなかったときは取り置き料を返還しない、購入したときは代金に充当する、と書く。
売主が約束を破って他の人に売ってしまうと、売買が成立していた場合は、債務の本旨に従った履行をしないことになり、買主は損害の賠償を請求できます(民法415条1項)。売主が履行を拒絶する意思を明確に表示した場合や、履行ができなくなった場合には、買主は契約を解除することもできます(民法542条1項)。受け取った手付や内金は、解除の結果、返還の対象になります。売主が債務を履行しなかった場合に、手付の倍額を支払う旨を定める書き方(違約手付)もありますが、その場合の賠償の範囲は書面の書き方で決まります。
売買が成立していない、つまり購入する権利を確保しただけの取り置きの場合は、売主が他の人に売ることは、取り置きの約束に反しなければ許されます。買主が取り置き料を払っていたなら、売主が期限の前に売ってしまうことは、取り置きの約束に反することになります。この場合、取り置き料の返還と、約束を守らなかった損害の扱いを決めておきます。取引の記録が不十分だと、取り置きの約束があったという事実そのものが争われます。
事業者が個人に売る場合のキャンセル料:消費者契約法9条1号の見方
ここまでは、主に個人が個人に売る場合を念頭に置いてきました。売主が事業者で、買主が消費者(事業として契約する場合を除いた個人。消費者契約法2条1項)のときは、消費者契約法という別の法律が重なります。事業者かどうかは、「事業として又は事業のために契約の当事者となる」かどうかで決まります(同条2項)。継続して物を売っている個人が、この「事業」に当たるかどうかは、取引の頻度や規模などの事情によるため、個別に判断する必要があります。立場ごとの整理は売る人・買う人の立場別の適用法令で扱っています。
消費者契約法9条1号は、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、または違約金を定める条項について、これらを合算した額が、同種の消費者契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるときは、その超える部分を無効とする、と定めています。取り置きの取り消しに、高額のキャンセル料を定める書き方は、この条文の対象になりえます。
条文メモ(手付・取り置きに関係するもの)
民法557条
手付による解除
買主は放棄、売主は倍額の現実の提供で解除できる。相手方が履行に着手した後は不可。損害賠償は請求できない(同条2項)。
民法420条
賠償額の予定
債務不履行の損害賠償額を予定できる。違約金は賠償額の予定と推定される(同条3項)。
民法545条
解除の効果
原状回復の義務。金銭を返すときは受領の時から利息を付ける(同条2項)。
民法556条
売買の一方の予約
相手方が売買を完結する意思を表示した時から売買の効力が生じる。
消費者契約法9条1号
キャンセル料の制限
同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分は無効。
手付の放棄による解除が、消費者契約法9条1号の「違約金」に当たるかどうかは、条文だけでは決まりません。事業者が消費者に売る場合には、手付の額やキャンセル料の定め方を、条文と所管官庁の資料で確認する必要があります。
手付が「解約手付」ではなく、違約金の性質を持つ書き方の場合は、特に注意が必要です。事業者が消費者に売る場合、「手付は一切返さない」とだけ書くと、実際の損害を超える部分が無効になる可能性があります。また、事業者が債務不履行の責任を全部免除する条項は、消費者契約法8条1項1号により無効です。取り置きの期間中に品物を傷めたときの責任まで、一律に免除する書き方は避けます。
起きがちなこと:手付と取り置きの食い違い
最後に、ここまでの内容を、実際に起きがちなことに置き換えて確認します。
手付・内金・取り置きで起きがちなこと
- 手付を渡した買主が、手付を放棄して解除したつもりが、売主は売買が成立済みだと考え、代金の請求を続けた。手付の意味が書面になかった。
- 「手付」「内金」「預り金」「申込金」が混在して書かれ、契約が解除されたときに何が返るのか分からなくなった。
- 売主が手付の倍額を返したつもりでも、買主はすでに残代金の一部を払っており、履行の着手の有無で争いになった。
- 取り置きの期間を決めておらず、売主が他の人に売ったところ、買主が「約束を破られた」と主張した。
- 取り置き料を払ったのに、買わなかったときに返ってくるのか、買ったときに代金に入るのかが決まっていなかった。
- 事業として売る人が、キャンセル料を「代金の全額」と書いていたため、消費者契約法9条1号の対象になりうる書き方になった。
これらは、手付の意味と、取り置きの型、期限、返還の扱いを一枚の書面に書けば、多くは防げます。取引の流れの中で、どのお金がどの意味を持つのかを、金額と一緒に記録しておくことが、手付と取り置きの契約書を作る際の出発点です。分割で代金を払う場合の手付や頭金の扱いは代金を分割で払う売買契約書で、高額品の真贋や付属書類の確認は高額品の個人売買で、トラブルになったあとの整理は売買でトラブルになったときで扱っています。
よくあるご質問
手付を払ったあとに、やめたくなった場合はどうなりますか?
買主が売主に手付を交付したときは、相手方が契約の履行に着手するまでは、買主は手付を放棄して契約を解除できます(民法557条1項)。売主の側から解除する場合は、受け取った手付の倍額を現実に提供する必要があります。ただし、書面で手付の意味や解除できる期限を別に決めている場合は、その定めが重要になります。手付による解除では、解除に伴う損害賠償は請求できません(同条2項)。
手付と内金は何が違いますか?
手付は契約の際に渡すお金で、解除の自由・契約の証拠・違約金のいずれかの意味を持ちます。内金は、代金の一部を先に払うお金です。契約が解除されたとき、手付は放棄や倍額提供という形で処理されますが、内金は受け取ったお金を返還するのが原則です(民法545条1項・2項)。書面では、別のお金として金額と扱いを書き分けておくと整理しやすくなります。
取り置きをメッセージで頼むだけで、契約になりますか?
契約は、申込みに対して相手方が承諾をしたときに成立し、成立には書面の作成などの方式は要りません(民法522条)。ただし、取り置きが売買の成立を意味するのか、購入する権利を確保するだけなのかは、やり取りの内容で変わります。期限、取り置き料、延長の扱いをメッセージの中で明確にしておくと、あとで確かめられます。
取り置き料は、買わなかったときに返してもらえますか?
法律に一律の決まりはなく、当事者の取り決めで決まります。取り置き料を「購入しなかったときは返還しない、購入したときは代金に充当する」と決めておくのが一般的な書き方です。取り置き料の定めがなく、性質が不明な場合は、争いの元になります。事業者が消費者に売る場合は、取り置きの取り消しに伴う金額が平均的な損害を超える部分は、消費者契約法9条1号により無効となりえます。
売主が手付の倍額を返すとは、具体的に何をすればよいのですか?
民法557条1項は、売主が手付の倍額を「現実に提供して」解除できると定めています。手付と同額を返すだけでなく、その倍額を買主が受け取れる形で示すことが必要です。振込か持参か、いつまでに行うかを書面で決めておくと、提供したかどうかを巡る争いを避けられます。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、品物の状態、当事者が個人か事業者か、やり取りの経過によって結論が変わることがあります。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。確認できなかった点は、条文と所管官庁の資料で確認が必要としています。参考: e-Gov法令検索 / 消費者庁 / 警察庁 / 国民生活センター